【佐用町】田邊貴之(たなべたかゆき)さん(30)は、「高校生の頃、観光農園でイチゴを食べる子供たちの笑顔を見て、こんな仕事がしてみたい」と思い、農業大学校でイチゴを専攻した。卒業後は農業法人で8年間勤めた後、昨年の春に独立し、県の補助を受けて14eのハウスでイチゴ栽培を始めた。 就農当初は、気候の変化への対応が難しく、害虫被害もあったが、現在は、収量・売上ともに計画以上の経営ができている。特に、個人向けの販売が予想以上で、対応しきれない場合もあるという。 寒い時期には、ハウス側面にマルチを張り、暖房経費の削減に努めるなど、地域にあった栽培方法を模索している。作業は基本的に1人で行っているが、最近は親戚に週3回の配送を手伝ってもらい、空いた時間を作業にあて、より高い品質管理に努めている。 「佐用町ではヒマワリが有名ですが、将来的には近隣の飲食店の協力を得て、イチゴをヒマワリ以上に有名にし、佐用町を元気にしていきたい」と意気込む。
【加古川市】「卵販売を通して地元農家とのつながりをつくり、地元に還元する複合的な経営を目指したい」と話す奥野克哉(おくのかつや)さん(49)。地元営農組合と協力し、純国産の飼料作りで卵のブランド力を高める一方、地元農家と連携し、地産池消に取り組んでいる。 奥野さんは、祖父が始めた製麦業を起点にして、現在は、採卵養鶏業の株式会社オクノの三代目代表を務める。 今では「オクノの玉子」は、全国的に有名な赤玉卵のブランドとなったが、先代から任された時には、苦労が絶えなかったという。都市近郊型農業のため、経営規模が小さく、特色を出さなければたちまち経営難に陥ってしまう。 そのような状況の中、就農と同時に地元青年会議所に在籍し、イベントの立ち上げに尽力するなど、地域活動にも積極的に参画した。こうした活動の積み重ねが社会的な信用を高め、事業に結びついていった。 その傍ら、開業当初から守っている卵の味を継承しつつ、純国産の飼料作りや商品開発に取り組んだ。一般的に飼料の自家配合はコストが掛かるため珍しいが、奥野さんはまずはここに目を付けた。地元営農組合と組合を設立して元になる飼料米を生産し、北海道産のトウモロコシなど12種類の原料を配合して自家配合飼料を生み出した。 この飼料を食べた鶏から生まれた卵がインターネット販売などの口コミで評判を呼び、次第にブランド力が高まっていった。今では、「日本たまごかけごはんシンポジウムのTKGチャンピオンシップ」で3連覇を達成するなど「オクノの玉子」のブランド力は確立されている。 また、奥野さんは卵販売だけにとどまらず、前職の食品流通部門での経験を生かし、地元野菜の直販を合わせた「産直マルシェ」などの直売所で、地産地消の推進にも取り組んでいる。直売所では、安定的に集荷できる強みを生かし、地元農家や若手農家を束ねる役を担っている。それぞれの農家が旬の野菜を持ち込み、それぞれの良さを出すことでチーム力が生まれている。 加古川農業改良普及センターの小舟博文所長は、「奥野さんの既成枠を越えた活動は、地域や農業者との連携によって生産から実需に至る新たな関係を生み出しています。今後も東播磨地域や農業者の特長を生かした取り組みの先鋒として益々の活躍を期待しています」と活動を評価する。 「これからは、若手農家とのコミュニティーを大事にしながら、地域循環型の養鶏業へ発展させていきたい」と展望を語る。