無農薬無化学肥料でおいしい野菜を作っている、たつの市の右田農園の開業前から現在の取り組みまでを紹介する。
初代、右田智之さん(68)はシステム・エンジニアであり、転勤が多かった。1982年愛知県江南市に在住の折、趣味で作った野菜がおいしいのはなぜかと驚き、独学で有機農法を学んだ。2000年55歳で会社を早期退職し、2年間新潟から長崎まで農地を探し求めた結果、02年に「行き止まりである。駅から近い」という理想の地がたつの市新宮町鍛冶屋で見つかり、妻の美穂子さん(64)と田舎暮らしを始めた。まずは家の改築と遊休農地化していた段々畑を開墾し、翌年にはネット宅配サービス「やさいBOX」を開始した。宅配の主な作業は美穂子さんの仕事である。2代目で息子の太郎さん(38)は、大阪府立農芸高校、秋田県立農業短大で学び、卒業後に出版社やNPO農場で勤務した後、08年から鰍ウさ営農(たつの市新宮町)で働きながら右田農園を手伝った。当初、消費者は無農薬無化学肥料で作った野菜への関心が薄かったが、近年食の安全安心への関心が高まるにつれ西播磨でも需要が増えつつある。現在は1fの畑で、農薬も化学肥料も使わずに作るトウモロコシやニンジンなど約80種の野菜は基より約30種類の自家採種野菜を栽培し、播磨の飲食店を中心に出荷と宅配、直売している。大きな転機は、ホテル・シーショア・リゾート(たつの市御津町)欧風料理「ラ・プラージュ」の小島正義シェフ(43)との出会いだ。小島シェフは、播磨は食材の宝庫だという。地産地消を目的に多くの農家を回った時、右田さんに出会った。彼の野菜や圃場に対する真摯な姿勢に感動 し、シェフ自らもオーガニック・コンシェルジュの認定を取得した。今ではメニューの中に『右田農園のこだわり人参ムース自家製コンソメのジュレ』とあり、お客さまから「野菜がおいしいね」と好評である。太郎さんは「小島シェフからいつも率直な意見をいただき、期待に応えるよう野菜作りに励んでいる」と語る。また昨年、太郎さんと結婚された、妻かすみさん(38)のアイデアである「乾燥野菜」、美穂子さんとの「ジャム等の加工品」もオータムフェスティバル飴龍野などのイベント販売で好評である。当たり前のことを当たり前にさらりと言い、実行する右田農園の4人は「これからも家族で協力し、気負わず、されど妥協せず問い続け、野菜本来の味を引き出すために完全無農薬、無化学肥料の野菜作りを継続します」と話す。
美方郡生活研究グループ連絡協議会は今春、豊富な郷土料理レシピを掲載した「伝えたい美方郡ふるさとの味」を再版した。この冊子は、美方郡の食文化の継承を目的に、2004年当時の邑橋裕恵会長が中心と なって編さんしたもの。販売終了後も購入希望の声が根強かったことから、新たなメニューを加え、今回の再版に至った。食材や旬の項目順にメニューが掲載され、フキやサンショウなどの農産物から、ハタハタやホタルイカなどの海産物まで、取り扱う地元食材は多岐にわたる。同協議会の中村寿弘会長は「この冊子の魅力は、四季折々の食材をふんだんに利用しながらも、どこの家庭でも昔からなじみあるメニューが多いということです。一人でも多くの方に活用してもらえることを期待します」と話している。