「増えすぎたシカを有効活用し、崩れた生態系を元に戻すことができれば農作物被害を防ぐことができる」と話すのは、丹波市の樺O波姫もみじ・柳川瀬正夫代表取締役(66)。駆除されたシカを利用し、新たな特産品作りに取り組んでいる。 シカ肉は「臭い、硬い」というイメージがあり、家庭では調理しにくい面があるが、フランスの「ジビエ(野生鳥獣肉)料理」など海外では高級食材として扱われている。そこで、同社は2006年に本格的なシカ肉加工会社として設立した。「捕獲後、生きているうちに血抜きをし、熟成させることで柔らかくおいしい肉になります」と柳川瀬さんは説明する。当初は、販路の拡大がなかなかできなかったが、京阪神にも目を向け、レシピや健康効果の紹介のほか、試食会などを開催し、情報発信に力を入れた。そのかいもあり、徐々にシカ肉を扱う飲食店が増えてきた。さらに、ハムなどの加工製品を販売する三田市の且O田屋総本家と提携し、加工品の開発が進み、新たな販路が開けた。同社の山ア眞仁専務は「シカ肉の良さは、血抜きの早さで決まります。仕留めるまでに時間をかければ肉に血が回り鮮度が落ちていきますが、適切な処理がされています」と話す。丹波姫もみじの設立時は、1頭につき3割程度しか食肉として利用できず、残りを廃棄していた。しかし、これまで利用できなかった部位や骨はペットフード、皮は洗顔クロスなど、内臓は土壌改良材などに。現在、ほとんどの部位を利用することが可能となった。14年から、加工は2団体と共に構成する「鹿加工組合丹波」で行い、丹波姫もみじは販売に特化している。課題は季節によって安定的なシカの供給が得られないことだという。「利益を第一に考えるなら、もう諦めていたかもしれません。壁に突き当たり挫折しそうになったこともありましたが、そのたびに支えてくれた人々の顔を思い出し、一歩一歩乗り越えてきました」と柳川瀬さん。地域の活性化につながるよう情報を発信していく考えだ。