【宝塚市】「消費者から『中西さんの商品がほしい』と言ってもらえるのがうれしいです」と話すのは、中西崇介さん(29)。宝塚市北部の自然豊かな田園風景が広がる西谷地区で約30eの圃場に「ゴルビー」や「シャインマスカット」など数種類のブドウを中心に栽培する一方、市街地のマンションの一角で直売所「ファーマーズマーケット中西」の店長を務めている。崇介さんは農業高校を卒業後、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農業者大学校に進学。その後、地元農家で研修を終えて、2009年4月に就農した。両親と二人の兄も農業を営む農業家族の一員として奮闘している。ファーマーズマーケット中西では、新鮮な四季折々の野菜を消費者に味わってもらいたいという思いから、できるだけ地元産を仕入れている。しかし、種類によってはまとめて大量に仕入れができないという。そこで、地元の野菜をバラで安く仕入れて、店で袋詰めすることで安く販売できるよう努力している。「仕入れ先のほとんどが身内やJA青年農業部などの知人のため、話をすれば融通してもらえる点が心強い」という。「トマト、イチゴ、ブドウなどは完熟になるまで収穫しないので、本来のおいしさを引き出しています」と胸を張る崇介さん。よく売れるのは自家栽培のトマト、キュウリ、イチゴ、ブドウや、ホウレンソウなどの軟弱野菜だという。「今春は、ドライフルーツやドライ野菜を新商品として販売したい」と意気込む。
「スーパーの野菜は土が付いていないきれいなものばかり。直売所には、土の色や匂いが残る取れたての安全・安心な野菜を並べています」と話すのは、「一本杉販売所」を運営する一般社団法人かつらの臼井辰雄代表理事(74)。「地域づくりの拠点として多くの方に利用してもらい、活性化につなげたい」という地域住民の思いから、農産物直売所と食堂の一体施設として2013年10月から営業している。施設がある福住地区は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されていて、農・食・観の拠点となっている。販売所では地区内にある県立篠山東雲高校と連携。生徒たちが栽培した、しののめビオラやパンジー、年末には門松も販売する。同校2年生の後藤さんは、「しののめビオラは先輩たちが改良した4代目で、今後も改良して色とりどりのビオラを多くの方に提供したい」と研究に励む。また、2年の赤井さんは「一生懸命作った花や門松を購入した方から『きれいだね』などの、ねぎらいの言葉がうれしかった。今後も、たくさんの方が気軽に参加できるような企画を考えて、直売所が私たち生徒と地域の方の交流の場になれば」と直売所を盛り上げる。直売所に隣接する「農家れすとらん・ふらり」では、同地区の郷土料理研究グループ「福楽里」が地元食材を生かしたメニューを提供。地元産の米や野菜を使った郷土料理は、「優しい味でごはんがおいしい」と好評で、京阪神方面から足を運ぶ常連客もいる。「地域の協力を得ながら、拠点としての役割を担い、福住地区の魅力を市内外に発信していきたい」と臼井代表理事は意気込む。
「イチゴ『明宝』には強い思い入れがあります」と話すのは、たつの市揖保町の小河博さん(74)。小河さんは、妻の治代さんと共にイチゴや野菜などを栽培している。小河さん夫妻は30年以上、明宝を栽培。明宝は幻のイチゴ≠ニいわれる品種で、栽培する農家が少なく、今では育成元の県立農林水産技術総合センター研究所にも種苗がないという。甘くて実が柔らかいのが特徴で、非常に口当たりが良く、子どもたちに喜ばれているが、傷みやすく日持ちが悪い。そのため市場に出回ることはほとんどなく、摘んだその日に直売するのが主流となっている。「苗の作り方が難しく、30年経過した今でも苦労します」と小河さん夫妻。種苗の中から良いものを選び、10月に220平方bのハウス1棟に1500本の苗を植え付ける。30aほど垂れ下がる実を収穫しやすいように高畝にする他、水が確実に行き渡るよう畝に配管を施設。12月にはハウスの被覆ビニールを二重張りにし、夜間は太いロウソクを4、5本灯すなど、凍結防止のためにいろいろと工夫し、1月中旬から5月中旬まで収穫が続く。直売の他、小河さん夫妻はデザート専門御屋敷Cafeに提供している。二人が栽培するイチゴにほれ込んだオーナーが期間限定で明宝のスイーツを製造。利用者からは「おいしい」と評判だ。「私たちが作った野菜などは、市内で月に数回開かれる『軽トラ朝市』にも出荷しています」と治代さん。「イチゴは二人三脚で栽培するのに最適で、夫婦円満の秘訣です」と笑顔で話す。
「退職してからのやりがいを見つけてほしい」という思いから、蛇持嘉 男 さん(68)は、地域の仲間とともに2006年4月に洲本市五色町鮎原で「ふるさと農産物直売所」を開店した。「利益はほとんど出ませんが、地域の活性化や交流につながればいい」と蛇持さんは話す。開店当初は30人ほどだった会員数も、現在では130人を超え、10年には市内の別の地区にも同様の直売所を開店した。会員はもともと自家用に農作物を栽培。退職を機に作付面積を増やし、自ら栽培したものを直売所に持ち寄っている。消費者のニーズに幅広く応えたいという思いから、近隣の淡路市や南あわじ市の農家と連携。品ぞろえを充実させている。四季折々の野菜や果物、米などの農産物だけにとどまらず、地域の特産品の手作り豆腐や味噌、和菓子などもあり、ワカメや魚介類の海産物も取り扱う。また、交流のある丹波篠山の黒豆製品も並んでいる。利用者が年々増加しているため、直売所の面積は当初の約3倍の大きさになった。品数が増え、列をつくる利用者を待たせないためバーコードレジを導入し、効率化を図っている。夕方5時まで営業しているので品物が不足した場合には、直接農家に連絡して補充。「品ぞろえを充実させることは難しいが、毎日開催できるようにしたい」と蛇持さんは目標を話す。