<黒毛和種の子牛とホルスタインの子牛はどう違う?>
乳用牛と肉用牛、両方の診療にあたっていると、子牛の育て方について、首をひねってしまうことがあります。一般的に多くの農家で行われている黒毛和種の子牛の飼い方が、現在正しいと言われている乳用牛の子牛の飼養方法とはかけ離れているからです。
黒毛和種の子牛は初めから藁を与えられ、生後長い間、固形飼料を与えられなくても、殆どの子牛はすくすくと育っていきます。乳用牛の子牛ならば、生後1週間で、スターターを給与され、それがある程度食べられるようになってから、藁ではなく、良質の乾草をもらっています。乳用牛の子牛が細心の注意を払って餌付けをしないと順調に育たないのに対し、黒毛和種の子牛は餌付けについてはさほど気を遣わなくても良いというのはどう言う事なのでしょうか?同じ牛でも品種によって違いがあるのでしょうか?
当たり前のことですが、答えは哺乳量の違いです。黒毛和種の子牛は普通、親牛と同居しており、親牛の泌乳能力が許す限りは飲みたいだけ乳を飲むことができます。朝、晩決まった量しか乳が飲めない乳用牛とは違って当然なのです。むしろ、黒毛和種の子牛の方が自然な姿であると言えます。
しかし、だからと言って安心してはいけないのは、その自然な状態では育たない子牛もいるという点です。近年、黒毛和種の繁殖農家の方も人口哺乳で子牛を育てるケースが珍しくなくなりました。何らかの理由で親が死亡したり、親が泌乳しなかったりするからです。それらの子牛は自然界では死んでしまうケースです。それを手間を掛けることによって、商品として販売できるのなら、苦労をいとわないのは当然のことです。しかしその苦労も、餌付けの失敗で水の泡...という事例に出会います。一昔前、乳用牛の子牛で酪農家の方達がぶつかったのと全く同じ問題につきあたるのです。
<制限哺乳下でよく起きる問題と注意点>
これは、人口哺乳している子牛だけではなく、乳量が少ない初産牛や老齢牛の子牛にもしばしば起きる問題ですから、他人事だと思わず頭の隅に置いておいて下さい。
1. 餌をよく食べるのに下腹ばかりが膨れて、下痢ばかりして太らない。
粗飼料の選定の問題です。藁、イタリアンストローなどリグニンが多く胃の中に溜まりやすい粗飼料を給与している場合に起こります。「いや、うちは昔から子牛は藁から飼うて来たけど、こんなになったことないでぇ。」とどなたもおっしゃいますが、乳をたらふく飲んでいる子牛はそんなにたくさん藁や乾草を食べないので問題なかったのです。哺乳を制限されている子牛は空腹ですから、際限無く粗飼料を食べることがあります。スターターを給与せずに粗飼料を先に与え始めた子牛では、更にその傾向が強くなります。まだ未発達の1胃に大量の藁やイタリアンストローなどが滞留すると、胃壁は伸び切って薄くなり、ダランとして下腹が膨れます。この状態では正常に1胃は動かず、スターターを食べていない胃壁には絨毛が発達せず、常に消化不良の状態です。
子牛にはまずスターターを与えましょう。そして粗飼料は通過速度の早いもの(腹に溜まらないアルファルファ、オーツへイなど)から始めましょう。
2. まだ、去勢前なのに、尿石が詰まって尿がでなくなった。
スターターや子牛用飼料の与え過ぎです。以前、そういう症例を経験された畜主さんにが「獣医さんがスターター食わせろって言うたから、無くなったら入れ、無くなったら入れして食いたいだけ食わしとったんや。」とおっしゃるのを聞いて、説明不足だったなと申し訳ない思いでした。ですが、実を言うと、その餌の袋には、給与量が大きな字で書かれていて、それ以上の量は与えないようにと注意書きまであるのです。読むのはじゃまくさいですが、説明書きにはこういう重要なことも書かれています。薬にしても餌にしても、たくさん与えれば良いというものではありません。では、規定量食べても腹を減らしている子牛を我慢させるのか?いえ、その時こそ、乾草を増やす時期です。 |